
在庫も売掛金も、多すぎると嫌がられる
事業を行っていく中で、在庫(棚卸資産)や売掛金がゼロということは、ほぼありません。
ある程度の在庫や売掛金が残ってしまうのは当然ですし、仕方のないこと。
しかしながら、その状況次第では、銀行融資の審査において不利に働くことがあります。
適正な水準の在庫や売掛金で、融資審査が通りにくくなることはまずないのですが、在庫や売掛金が不自然に増加している場合、又は増加してしまった場合には、注意が必要になります。
通常、売上が増えれば在庫も増えますし、また、売掛金も増加していきます。
対して、売上が増えてない、あるいは減少しているのに、在庫や売掛金だけが増えているような場合ですと、融資担当者はその数字を疑います。
「売上が不調なのに、在庫が増えているということは不良在庫を抱えているのでは?」
また、同様の状況で売掛金だけが増えているということは、
「売掛金の回収ができていない、支払サイトが長い得意先が増えてきているのでは?」
と、融資担当者は考えます(※)。
※売掛金を手形で回収している場合には、「受取手形が増えているか」もチェックされます。
売掛金を使った粉飾決算
銀行が在庫や売掛金の増加を嫌う理由は、もうひとつあります。
在庫や売掛金を使った粉飾決算を行う会社が非常に多いという点です。
架空売上を使えば、売上と利益を簡単にかさ増しすることができます。
しかし、その売上を回収することはできないため、売掛金が異常値になります。
具体的な例でみてみましょう。
売上を100かさ上げしたとします(粗利率20%)。
その結果、損益計算書上では、売上が100、営業利益が20アップします。この通り、簡単に売上と利益のかさ上げができてしまいますね。
一方で、この売上はいつまで経っても回収できない偽りの売上です。貸借対照表には売掛金が100増えた状態が、未来永劫続くことになります。
その結果、貸借対照表の売掛金が徐々に積み上がっていき、異常値を示すようになります。
他にも、関連会社への押し込み販売や下請けへの有償支給などの手口で、売上と利益のかさ上げを図ることもあります。
これらの場合は、売掛金を回収することはできますが、利益率が異常値を示すことになります。
在庫を使った粉飾決算
こちらについては、手口は単純です。
通常、決算時の売上原価は
期首棚卸資産残高+当期仕入高-期末棚卸資産残高
という式で求められます。
ということは、期末時点において在庫をかさ上げするだけで、簡単に売上原価が減り、利益が増えることになります。
具体的には、次のようになります。
期末の在庫金額を100増やしたとします。結果、売上原価が100減るります。売上原価が減るということは、利益が100増えるということですね。
ところが、このままだと貸借対照表上の棚卸資産が増えたままの異常値を示すことになります。
在庫に関しては、融資担当者が不審に思った場合は、「倉庫を見せて欲しい」などと言ってくるケースもあります。
在庫や売掛金が増えていないかをチェックできる指標とは
このような理由から、銀行は在庫や売掛金の増加を嫌います。
粉飾決算を疑わざるを得なくなってしまうからです。
ただ、売上が毎年変動する中で、在庫や売掛金が増えているかどうかは、在庫や売掛金の金額のみをもって判断することはできません。
そこで、銀行が判断材料としている指標がありますので、ご紹介しておきます。
「棚卸資産回転期間」と「売上債権回転期間」です。
棚卸資産回転期間とは
棚卸資産回転期間は、
棚卸資産回転期間=棚卸資産÷(売上原価÷365)
という計算式で求めることができます。
「在庫が何日分あるのか」を計算しているもので、この数値が大きくなると、不良在庫が増えている可能性を示唆します。
売上債権回転期間とは
また、売上債権回転期間は
売上債権回転期間=売掛金÷(売上÷365)
という計算式で求められます(※)。
こちらも、「売掛金が売上の何日分か」を求めており、数値が大きくなると、それだけ売掛金の回収に時間がかかっていることを示します。
※受取手形が多い場合には、「売掛金+受取手形」を使って計算します。
これらの数字は、在庫や売掛金が、「今の販売状況で見て何日分なのか」を見ているため、売上が変動していても過去の数値や業界標準の数値と比較することが可能になります。
在庫や売掛金が多いことで、回転期間が急上昇したり、業界標準よりも高かったりする場合は、経営状態が芳しくないということを意味します。
つまりは、銀行がいい顔をしなくなるということですね。
粉飾を疑われる等、痛くもない腹を探られないようするためにも、定期的に「棚卸資産回転期間」や「売上債権回転期間」については、チェックされておくことをお勧めします。