その手当、報酬に入る?入らない?~社会保険の算定で迷いやすい論点整理~

社会保険の実務ではその報酬の範囲が重要になります。
報酬に入るのは基本給だけではありません。手当、賞与、さらには社宅や食事といった現物の提供まで、対象は広くなり得ます。
一方で、慶弔金や退職金のように、支給されても報酬に入らないものもあります。
どこで線引きされるのか。基本の考え方と、間違いやすい具体例を整理します。
社会保険の「報酬」とは:結論は「労働の対価として受け取るもの」
社会保険(健康保険・厚生年金保険など)における「報酬」とは、労働者が労働の対価として受け取るすべての金銭的な支払いを指します。さらに、金銭(通貨)に限らず、現物で支給されるもの(現物給与)も含まれます。
例として、基本給、各種手当等が含まれます。他方、臨時的・恩恵的な支払い(結婚祝い金、退職金、賞与など)は含まれない、という整理です。
労働保険の「賃金」と似ているが、計算方法が違う点に注意
労災保険・雇用保険(労働保険)では「報酬」ではなく「賃金」という用語を用いますが、基本的な考え方は共通です。
ただし実務上の注意点は、保険料の計算方法が異なることです。
- 社会保険料:報酬に基づき、標準報酬月額(等級)で計算
- 労働保険料:年度内に支払った賃金総額で計算(年度単位)
「報酬に入るか否か」は、社会保険だけでなく、労働保険や税務にも波及します。まずは社会保険の定義を土台として、制度ごとの差を丁寧に切り分けることが大切です。
報酬に入るもの/入らないもの:ざっくり全体像
報酬に入る(主な例)
基本給(各種の給料形態)、役付手当、残業手当、食事手当、休業手当、精皆勤手当、家族手当、通勤手当、宿日直手当、住宅手当、休職手当など。
さらに、年4回以上支給される賞与・決算手当は「賞与」ではなく「報酬」として扱われ得ます。
報酬に入らない(主な例)
出張旅費、慶弔費(結婚祝い金・災害見舞金)、傷病手当金や休業補償給付、退職手当(退職金)、年3回以下の賞与・決算手当など。
そして見落としやすいのが、現物給与(社宅、食事、通勤定期券等)が報酬になり得る点です。
要注意①:慶弔金は「報酬に該当しない」
結婚祝い金や災害見舞金などの慶弔金は、社会保険の「報酬」に該当しないため、保険料算定の対象にはしません。
要注意②:傷病手当金そのものは報酬ではないが、「見舞金」は報酬になることがある
傷病手当金や休業補償給付は報酬にあたりません。
しかし、療養中の社員に会社から「見舞金」を支給するケースがあります。この見舞金が、就業規則等に定められ、生活保障的な意味合いを持つ場合は、報酬に該当すると整理されています。
実務では、名称(見舞金/手当)だけで判断せず、趣旨・支給根拠・支給条件をセットで確認することが安全です。
要注意③:退職金は原則「報酬に該当しない」。ただし“前払い”は別
退職金は退職時に支払われるもので、社会保険料の対象外です。
ただし、退職金の一部を在職中に給与や賞与として前払いする場合、その金額は社会保険の報酬等として扱われ、社会保険料の対象となります。
ケーススタディ
社宅や食事の提供は報酬になる?
社宅・寮の提供、食事の支給は「現物給与」に該当します。現物給与額は、都道府県別に定められた現物給与価額をベースに計算し、報酬に反映させます。
- 社宅:現物給与価額から社員の自己負担額を控除した額が、報酬に加算されます
- 食事:自己負担が現物給与価額の3分の2未満なら差額を報酬に算入。3分の2以上なら「現物給与なし」と扱い、報酬に算入しません。
テレワーク時に「たまに出社」する交通費は?
テレワーク導入企業で、一時的に出社する交通費を支給する場合、労働契約上の労務提供地がどこかで結論が変わります。
- 労務提供地が自宅:業務命令で一時出社する交通費は実費弁償→報酬に含めない
- 労務提供地が会社:出社交通費は通勤手当→報酬に含める
賞与は「年3回以下」と「年4回以上」で何が変わる?
社会保険でいう「賞与」は、労働の対価として受け取る金銭のうち、年3回以下の支給のものを指します。
年4回以上支給される場合は「賞与」ではなく「報酬」として扱われ、定時決定の判定期間(前年7月1日~当年6月30日)で、年4回以上の支給実績があると「賞与に係る報酬」として標準報酬月額に加算される、という考え方が示されています。
なお、年3回以下として取り扱われる「賞与」を支給した場合も、賞与は社会保険料の算定対象(標準賞与額)となるため、支給の都度、管轄の年金事務所へ「賞与支払届」の提出が必要です。
まとめ
社会保険の「報酬」は、労働の対価として支給されるものを広く含み、現物給与まで対象になり得ます。一方で、慶弔金や退職金など、対象外の支払いもあります。特に、社宅・食事、テレワーク交通費、賞与の回数区分は、実務で判断が割れやすいポイントです。
「年収の壁」対応を検討する場面ほど、まずは“報酬の範囲”を正確に押さえ、制度ごとに適切な整理を行うことが、手続きミスと説明トラブルの予防につながります。



