はじめに
株式を発行して資金調達することを直接金融といいます。一方、銀行などの金融機関から資金調達することを間接金融といいいます。
中小企業がこの直接金融を行うのは、正直敷居が高いです。
オーナー兼社長のような中小企業であれば、出資者(新株を引き受けて出資してくれる人)は、身内や従業員、知り合いなどごく親しい人に限られてしまいます。
新株発行による資金調達については、ベンチャーキャピタルの利用も考えられますが、上場していない中小企業の株式は換金性及び流動性が低いという理由から、多額の出資を期待することが難しいのが現状です。
また、資金調達を考えている会社側としても、新たに株式を発行して資金調達を行うと株主の持株比率が変わることから、経営権を奪われるのでは?余計な口出しをされるのでは?と発行を躊躇し、資金調達まで至らないケースがままあります。
このようなケースでも「種類株式」をうまく活用することで、投資家、会社、双方の希望にマッチした株式を発行することができます。
種類株式は全部で9種類あります。今回は、その中から「資金調達に使いやすい種類株式」を厳選して紹介していきたいと思います。
資金調達に使える種類株式その1《議決権制限株式》
投資家(出資者)の中には、会社の経営には興味がなく、出資することによっていくら利益があるかのみ興味を持っている人も多くいます。
実際に株主総会に参加するのは面倒だ、そんな責任は負いたくないと思っている人もいます。
そのような投資家には会社に対する「議決権」を付ける必要はありませんので、議決権を制限する=議決権がない株式「議決権制限株式」を発行することができます。
通常の株式には会社の経営権でもある議決権が付いていますが、種類株式ではその議決権を除外することができるのです。
もちろん配当を受ける権利や残余財産の分配を受ける権利は残っています。
会社側のメリットは、出資をしてくれるだけでなく「議決権」もないので会社の業務運営に支障をきたすことがありません。
しかし投資家からすると議決権がなくただ出資するだけでは魅力に欠けます。
このため、議決権制限株式単体で発行するのはまれで、議決権がない見返りとして他の株主より配当を優先する株式「配当優先株式」と組み合わせて発行することが一般的です。
資金調達に使える種類株式その2《配当優先株式》
配当優先株式は、その名の通り「他の株主よりも配当が優先される」株式です。
例えば、
「配当優先株式を持っている株主に対して、普通株式を持っている株主に先立ち1株につき年◯円の配当金を支払う」
といった設計をすることができます。
一般的に「優先株式」は、配当優先株式と議決権制限株式と組み合わせた「配当を優先的に受ける権利はあるが議決権は制限される株式」を指すことが多いです。
配当優先株式であれば少し価格を高くしても投資家を募ることができるでしょう。
ですが、「他の株主よりも配当が優先される」「議決権もある」ことは投資家にとっては魅力的な株式ですが、会社にとっては負担が大きくなりますから、種類株式を組み合わせて議決権を制限し、かつ、投資家に有利な条件を提示することが多いです。
資金調達に使える種類株式その3《取得請求権付株式》
上場していない会社の株式は市場に流通することがなく、株主が売りたい時に売れず、現金化することが困難であることから出資に躊躇する投資家もいます。
更に非公開会社であれば、株式を売る際に会社の承諾を得る必要があり、投資家にとってマイナスな面があります。
会社にとってもこのような事情から幅広く出資を募ることができません。
そこで活用されるのが「取得請求権付株式」です。
取得請求権付株式は、株主が会社に対して株式を買い取ることを請求することができる株式です。
株主が自分に都合の良い時に会社へ「株式を買い取って欲しい」と請求できますので、株主は最低限度の対価を回収することができるため、出資リスクを抑えることができます。
投資家にとって会社の買取保証が付くというメリットがあり、会社側にとっても「取得請求権」を付けることで資金調達のハードルが低くなるというメリットがあります。
会社は定款において、株主が会社に対して買取請求ができる事、その期間、引換えに交付する対価の内容を定めます。
会社が支払う対価は、現金はもちろんのこと、会社が発行している他の種類株式、社債、新株予約権などと定めることもできます。
ただし、対価を現金など会社の株式以外の財産を交付する場合は、請求の日における分配可能額を超えた財産を交付することはできませんので、注意が必要です。
種類株式よりも発行にかかる手間が少ない《属人的株式》とは?
会社法上の種類株式とは少し性質が異なりますが、ここまで紹介してきた3つの種類株式と似た存在の株式を発行することもできます。
「属人的株式」と呼ばれる株式です。
前述の3つの種類株式は、発行する場合、必ず管轄の法務局で種類株式発行登記というものを行わなければなりません。
属人的株式は、定款変更を行うだけで発行できるのが大きな特徴です(ただし、属人的株式の発行に伴って増資を行いますので、増資登記を行う必要はあります)。
属人的株式についての詳細は、下記ページに掲載しておりますので、ご興味のある方はぜひ参考にして頂ければと思います。