日本政策金融公庫(公庫)は100%政府出資の政府系金融機関です。
かつては国民生活金融公庫(国金)と呼ばれ、日本の個人零細企業・中小企業に広く活用されてきました。
特徴は何と言っても低金利・長期・固定で借りられるという融資の中で最上級の条件である3つが挙げられます。
特に金利は0%台~概ね3%程度で借入が出来るため、市中の金融機関とは比べ物になりません。
信用保証協会付融資(制度融資)と並んで国内2大公的融資の一つで、事業を営んでいるのであれば確実に融資のファーストチョイスとしてお付き合いしておきたい金融機関です。
とはいえ、融資においては金利が低ければそれだけ実行率も低い(審査が厳しい)というのが常識です。
「日本政策金融公庫は審査が緩い」との噂を聞いたことがあるという方も少なくないでしょう。
それは事実で、銀行などの民間金融機関に比べれば融資姿勢としては協力的で理解もあると言えます。
しかし、あくまでもそれは民間金融機関に比べて審査がやや緩めというだけの話で、決して日本政策金融公庫から簡単にお金が借りられるというわけではないということをまずは心に刻んでおきましょう。
では、一体どのようなポイントを押さえておけば、日本政策金融公庫から融資を引き出す確率を上げていけるのでしょうか?
ポイントは4つです。見ていきましょう。
①総事業費の自己資金を最低3分の1は用意する
自己資金をどれだけ用意したのか?という点は、日本政策金融公庫からの融資申請に置いては最も重要といえるポイントです。
なぜ自己資金額がそれほどまでに重要かと言いますと、自己資金額こそが、その方の事業にかける努力・熱意・準備の表れであり、利益を出せることの事前証明みたいなものだからです。
例えば、あなたが友人知人にお金を貸すとして、
「なんとか自分でも200万円用意した。ただ、どうしても足りない400万円を貸してくれ」
と言われた場合と、
「お金がないから600万円貸してくれ」
と言われた場合、実際に貸すかどうかは別として、どちらの方が心情的には応援したいと思われますか?
自分で何の努力もせずに全額を借入に頼ろうとする精神性と、自分ではできる限りの努力をした上で足りない分を融資してもらおうとする精神性とでは、貸出側に大きな印象の違いを与えます。
言うまでもありませんが、自己資金を貯めるというのは並大抵の努力ではできません。
毎月の収入から色々なことを我慢し、どうにかこうにかプラスを残し、それを数ヶ月、数年継続することでのみ、まとまった自己資金が確保できるわけです。
日本政策金融公庫の担当者もその部分をしっかりと見ているのです。
また、毎月の収入から貯金をしていること自体こそ、毎月の私生活という枠組みの中で利益を出しているということに他なりません。
私生活で利益を出せないような人がどうやって事業を行って利益を出していけるというのでしょうか?
日本政策金融公庫が政府系金融機関といえど、返済してもらわなければならないのは他の金融機関と何も変わりません。
借入の返済は利益からしかできないわけで、私生活ですら利益を出せない方は事業では利益を出せない=返済原資を捻出できず、融資金を返済できない人間との評価を受けても文句は言えないでしょう。
日本政策金融公庫の新創業融資は総事業費の10分の1でOKとありますが・・・
新創業融資は自己資金の要件として以下のように定めています。
事業開始前、または事業開始後で税務申告を終えていない場合は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できる方。
これはつまり、総事業費として300万円必要な場合、30万円の自己資金があれば、残り270万円は融資しますよ、ということです。
要件上(表向き)は、、、、という話ですが、額面通り受け取ることはできません。
はっきり言ってこれは客寄せパンダ程度に認識しておいた方が良いでしょう。
実際に10分の1の自己資金で希望額通り融資実行してもらえると思ったら大間違いで、この条項に過大な期待を寄せるのは大変危険です。
例えばテストの足切りが6割だとして、6割ギリギリ取ることで勝負をかけようとしている人が本番で落ちやすいのと同じことです。
10分の1というのはあくまでも足切りであり、最低限度の条件です。
これだけあれば少なくとも門前払はしませんよというだけの話で、融資するとは誰も一言も言っていません。
じゃあ3分の1あれば確実なのか?
と言われればもちろんそんなこともないわけですが、かつては、総事業費の3分の1の自己資金を用意することが要件でした(その前は2分の1です)。
現在要件自体は大分緩和されましたが、本来はそれだけ自己資金は重要視されていた表れであり、それは2020年現在も変わっていません(今後もこの考え方が変わることはないでしょう)。
最低でも総事業費の3分の1程度は貯めることを目標にし、達成した上で融資申請には臨むことが好ましいと言えます。
②事業計画書・決算書
税務申告2期を終えている場合には、必ず直近の決算書2期分の提出を求められます。
この場合、決算書の出来に融資実行可否が左右される割合はかなり大きいです。
決算書上の業績が好調で売上や利益の伸びに対応する新規設備投資や人材確保のための前向きな融資なんかですと、融資は下りやすいと言えます。
一方で、業績不振で債務超過、自己資本比率も低下し、借入金の返済を借り入れで賄おうとしているような決算状況ですと融資実行は厳しいと言わざるを得ません(ただ、業績不振事業にも融資を実行するセーフティネット貸付も用意されているのですぐに諦めないでください)。
※コロナ融資制度なども設けられています(新型コロナウイルス感染症特別貸付)。
しかしながら、新創業の場合には2期分の決算書自体がないので、事業計画書が全てになります。
具体的で明確な、そのビジネスモデルについての知識がまったくない公庫担当者でもわかる、融資したいと思わせるような説得力のある事業計画書になっていなければなりません。
- どんな業種で、なぜその事業をやろうと思ったのか?
- 事業開始に必要な資金はどの程度で、何に使うのか?
- 借入金によってどのような効果が見込まれるのか?
- 事業費用は全て借り入れでまかなうのか?親族知人からの借り入れもあるのか?リースではダメなのか?
- その事業の強みと弱みや他社との差別化部分はどこなのか?
- 売上はどのくらい立つ見込みなのか?またその根拠は?
- 誰に売って、誰から仕入れるのか?
- 経費は漏れなく計上されているのか?その上でどの程度の利益が出るのか?
- 出た利益の中からきちんと毎月の返済金額が返せるのか?その上で生活は破綻しないだけの手残りがあるのか?
これから始める事業なわけですから、実際どのような数字になるかは神のみぞ知る、、かもしれません。
しかし事業計画書上に根拠なき適当な数字を並べただけで融資が下りるほど、甘くはないのは冒頭で述べた通りです。
公庫の担当者は非実現的な利益がドーンと計上された事業計画書は見慣れておりますので、鼻からそんなものを信じてはいません。
派手で過大な夢のような計画ではなく、地に足をつけた実現可能な数字をきちんとした根拠やデータを持って示すことが重要になります。
最低限の事業計画書は、必ずご自身の手で書いてください。
コンサルタントや私共のような認定経営革新等支援機関に相談すること自体は構いませんし、上手に活用していただければと思いますが、事業計画書の作成をただ丸投げするような人は、面談でボロが出ますので、すぐにバレます。
事業計画書はご自身の情熱や経験、事業がどうやってうまくいき、どのように返済をしていくかを表明する資料です。
ここがいい加減では、せっかくコツコツ貯めた自己資金があり、担当者の評価を得たとしても融資が下りることはありません。
公庫の担当者に限らず、第三者が見ても、
「これなら応援したい」
「これなら返済はなんとかなるだろう」
そう思わせる出来栄えでなければなりません。
決して簡単ではないかもしれませんが、ご自身が必死で考え、様々な市場調査をし、自分の言葉で作り出した事業計画書は公庫担当者にも伝わるでしょう。
何より面談時にもご自身を助けることになります。決して手を抜かず、具体的な事業計画書を用意しましょう。
③担保力(不動産担保・連帯保証人)
借入額次第では、不動産担保や連帯保証人を求められます。これらは必須ではなく、日本政策金融公庫でも担保を不要とする融資があります。
しかし不動産担保は元々借入額が1000万円超えくらいの場合から求められることが多いですし、そう簡単に用意できるものではありません。
よって、数百万円単位の融資の場合には連帯保証人が、メインの担保力を示す手段となります。
もちろん連帯保証人だっておいそれ頼めることではないでしょうが、連帯保証人を確保しておく努力は融資申請者の義務でもあると心得ましょう。
どうしても連帯保証人をつけたくない場合には、連帯保証人つけなくても融資実行されるレベルの自己資金や事業計画書を用意することです。
とは言え、それらを用意した上で連帯保証人を求められることもあるのでやはり連帯保証人の目星はつけておきたいものです。
連帯保証人に成り得るのは、収入があり、生計を同一としていないこと。つまり、同居親族では連帯保証人になりません。
逆に言えば、別居していれば家族でもOKで必ずしも第三者である必要はありません。
連帯保証人を付けるというのは簡単なことではありません。
しかしながら、応援してくれる人・連帯保証人になってくれるほど信用してくれている人がいるというのは、融資実行する側からすると融資金を担保する以上にその人に対する人物評価の物差しになり得ます。
また、自己資金の評価と同じで連帯保証人になってもらうべく駆けずり回り、色々な人に頭を下げたであろうその努力や姿勢を評価されるため、連帯保証人を付けることに対して公庫は融資を前向きに検討できるのです。
日本政策金融公庫の融資申請においては、最初から「連帯保証人を付けます!」と自発的に申し出る必要はありません。
先回りして連帯保証人を確保しておき、先方に求められたらその際に応じるという形で構いません。
案外担保も連帯保証人も求められずにすんなり融資が通りましたという方もいらっしゃいます。
尚、融資金額や借入申込者の与信、連帯保証人の収入状況次第では、連帯保証人を2名求められる場合もあります。
心の準備と複数の連帯保証人をお願いできる方の確保を心がけておきたいものです。
連帯保証人を頼む場合には、突然「連帯保証人になってください」と言われると誰でもその響きから拒絶反応を示します。
- きちんとどのような事業計画なのか?
- 返済額は月々どのくらいなのか?
- 万一のことがあった場合にはどうなるのか?
などを細かく説明することが重要なポイントです。
例えば、300万円の借り入れの場合、60回返済だとすると月5万円程度ですし、まるまる連帯保証人にお世話になることはないでしょう(借り入れと同時に事業が倒産することはないでしょうから)。
仮に3年で事業が立ちいかなくなり返済も出来なくなったとしても半分は返済が済んでいるので残債は150万円程度ですし、倒産後すぐに仕事を探して就職すれば、月々5万円程度は連帯保証人の方に迷惑をかけずに返済していけるはずです。
この辺の説明をきちんとした上で連帯保証人になってもらえる人が誰もいないとしたら、それはあなた自身が全く信用されていないことの証左に他ならないので、担保力の面ではゼロとして融資に臨むより他ありません。
なお、日本政策金融公庫の「新創業融資」について言えば、無担保・無保証人による借入が可能となっていますので、連帯保証人をつけずに融資を受けたいという方は、必然的に新創業融資等を利用することになります。
あるいは、信用保証協会付融資も連帯保証人が不要です(代表者保証は必要な場合が多い)。
④面談
面談の席では事業計画書に記載している内容以外にも突っ込んだ話がされる場合があります。
家族構成や世帯収入など、借り入れ申込者からすると「なんでそんなことまで答えないといけないんだ!」と腹をたてる場合もあるかもしれません。
もちろん人種や国籍、政治信条、門地など差別的或いは差別につながるような質問は許されませんが、一見関係ないようで融資に関係する質問をされることはあります。
例えば、家族構成や世帯収入を聞かれるのは、事業計画書上の利益が15万円だとすると、地方に住んでいる独身者なら生活できますが、都内に一家4人で住んでいるとしていると、他に収入がない場合、生活は立ち行かないはずです。
生活の破綻は即融資返済の滞りに直結するわけですから、公庫とすると無視するわけにはいかない重要な事情です。
面倒なこと、細かいこと、一見事業とは関係ないんじゃないの?と思えるようなことを聞かれるかもしれませんが、その一つ一つに真摯にきちんと受け答えしているかが見られているのです。
そうした細かい部分に事業計画書上の不備があったり、人物としての信用性に欠ける部分が見え隠れしてしまうと融資不可という結果になります。
面談では担当者とバトルするのではなく、二人三脚で融資実行に向けて頑張るという気持ちで臨むと良い結果に繋がりやすいでしょう。
公庫担当者も様々ですが、別に公庫担当者も嫌がらせをしているわけではありません。
決して迎合して下手下手に出ろというわけではありませんが、融資を実行に結びつけるにはそれだけ細かいこともやらないといけないし、簡単にいくことではないという先方の立場も理解し、協力的な姿勢を見せることが得策ということですね。
面談後に追加資料を求められることも多々ありますが、それらも誠実に応じることが大切です。
面談では一挙手一投足が見られていると心得た上で、臆することなく事業への思いとあなたの熱意、人間性をぶつけ是非融資成功に結びつけて頂きたいと思います。